otaku8’s diary

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『MONOS 猿と呼ばれし者たち』感想(ネタバレなし)

www.imdb.com

南米の山岳地帯で暮らす8人の少年少女。ゲリラ組織の一員である彼らはコードネーム「モノス(猿)」と呼ばれ、人質のアメリカ人女性を監視している。厳しい訓練で心身を鍛える一方で、10代らしく無邪気に戯れる日々を送る彼らだったが、組織から預かっていた乳牛を仲間の1人が誤って撃ち殺したことをきっかけに亀裂が生じてしまう。そんな中、敵から襲撃を受けた彼らは、ジャングルの奥地へと身を隠すが……。

MONOS 猿と呼ばれし者たち : 作品情報 - 映画.com より

 試写会にて鑑賞.

 試写後には本作の「主人公」であるMONOSの母体であるゲリラ組織の基になったと思われるFARC(コロンビア革命軍)へ実際に取材した田村剛さんの話もあり,とても勉強になった.ネタバレはしたくないので,個人的に良かったと感じたポイントだけ書いていこうと思う.

映像

 まず,なんと言っても映像が良い.本作のメインとなる舞台は大きく分けて山頂とジャングル.特に前者はロケーションが非常に素晴らしい.「人間界」から離れた厳しくも美しい光景は異世界感を感じさせ,物語に寓話性を与えている.ジャングルでの場面はどうやって撮影したんだろう.とても過酷な撮影だったのだろうと思うが,そのリアリティが映画に説得力をもたらしていた.また、各ショットは物語のテーマを象徴するような撮り方で,そういう構図の巧さにも注目したい(もう一度観たい).

音楽

 本作で音楽が流れる場面は限定的だが,非常に印象的でもある.担当したのはミカ・レヴィ.『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』などを手がけた人だ. 

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 音楽について専門的なことは語れないが(パンフに詳しく書いてあるのでオススメ),作品に独特のリズムをもたらしており,本作の大きな魅力の一つ.

キャラクター

 本作のキャストは皆様々なバックグランドを持っている.ハリウッドで活躍している人もいれば,演技初挑戦の人もいる(ほとんどはコロンビアにルーツがある).中には実際にFARCの元司令官だった人もいる(本物ゆえの凄みがあった).その厳選された寄せ集め感も何処へ向かうか分からないMONOSの不確実な物語(実際のFARCの実情にも)に合っていた.各々,キャラが立ってはいるが,特定の誰かに肩入れするようなこともしていない.監督もインタビューで述べていたように,主人公はこのMONOSという組織自体であり,その流動性を観客は追っていく.キャラクターに共感させることもしない. 

 本作のタイトルは「猿」という意であり,これも非常に合っている.MONOSのメンバーは少年少女であり,「人間界」から離れた山岳地帯で暮らす彼らには無邪気な初々しさが溢れている.同時にそこには当たり前のように暴力が同居していて,原始的な,異質な雰囲気を醸し出していた.

雑感

 本作は台詞ではなく映像や音楽,役者の存在感で魅せる,まさに映画ならではの体験をさせてくれる作品.自分たちに馴染みのある現実とは切り離された世界で展開されるMONOSの話は,幻想的な雰囲気もあって一見架空のものに思えるが,実はコロンビアの実情に即し,その社会構図を説明臭さなしに表現したリアリティのある物語だった.その所在不明感とリアリティが融合することで,この物語がコロンビアだけのものではないという普遍性も感じさせられた.

 不満点を一つ挙げると,あまりにも上映館が少ないことは残念.今後拡大上映していくのかもしれないが.というわけで上映館が少ないので,上映館が増えて欲しいという意味も込めて今回は感想というより紹介記事みたいになった.

 

アレハンドロ・ランデス監督,日本では本作のみが観られるが,今後注目したい.

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田村さんの著書で,コロンビア和平について分かりやすく書いてある