本作を初めて知ったのは中学の日本史の授業だ.恐らく当時の新聞などを引用していた配布プリントには「バンツマ」という単語がデカデカと書いてあったことが記憶に残っている.バンツマとは大正〜昭和のスター,阪東妻三郎のことである.
阪東妻三郎演じる若侍,平三郎は正義漢なのだが,自らの行動が誤解を招いてしまい不条理にも周りから悪人のような仕打ちを受ける.追われる身となった平三郎はどんどんと堕ちていく.一方で本当の悪人は「善人」として平然と暮らしている.
この映画で好きなのは,不条理な世の中で人はあまりに無力であり,その様子が阪東妻三郎の悲壮感溢れる演技によって体現されているところだ.
酷い仕打ちを受け続けた平三郎は遂にこの不条理な世界に牙を剥く.この二十七分間の大立ち回りは圧巻で,撮影技法への興味が掻き立てられるという意味でも本作の目玉だ.この大がかりなアクションシーンにおいてもやはり,平三郎の悲壮感が妻三郎の見事な演技をもって強調される.
現代にも通ずる普遍性のあるお話で面白く,同時にちゃんと「画」でも魅せてくる作品.良いですね.