以前の記事の中で書いたようにセミフ・カプランオールの『グレイン』を早く観たいとボヤいていたら,突然U-NEXTで見放題になったのだからびっくりだ.
謎の遺伝子不全(「遺伝カオス」と呼ばれる)によって作物がダメになってしまうという事態に陥った近未来.種子遺伝学者エロールはこの危機を救うため,かつてこの現象を予言したアクマンという男を探し出し,行動を共にする.事前の評判通りタルコフスキー感,特に『ストーカー (1979)』を思わせる.
カプランオールの『卵』『ミルク』『蜂蜜』(ユスフ三部作)は主人公ユスフの壮年期から幼年期まで遡ることで,ユスフという人間の原点や本質に回帰していくような作りだった.『グレイン』では,エロールはアクマンと旅をしていく中で人間としての自分の原点に立ち戻っていく.彼の映画は静かで劇伴は殆どない.その静寂の中で本質に耳を傾けようとする.
観る前はハードSF的な感じなのかなと思っていたが,実際にはツッコミどころも結構あり,科学描写よりも哲学に重きを置いているように感じた.
本作は現在進行形で進む地球環境破壊に対して警告を発する映画になっていて,監督のインタビューからも分かるように,メッセージ性の強い作品にもなっている.