otaku8’s diary

映画のこととか

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の一番の不満点(ネタバレあり)

 まず本作(NWH)は好きな映画であり,自分は満足している.ただ,やはり気になってしまう部分もある.今回はレビューとは別に不満点を書いていく.今回は批判が多くなるが,自分はNWH肯定派で製作陣には感謝しているので悪しからず.

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ネタバレありです!

 

 初めて本作を観たとき,ストーリーに対する疑問等より先に引っかかってしまったのは,サンドマンとリザードが薬により元の姿に戻る場面で過去作の映像を使っていることだ.

 


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 過去作の映像を再度使うこと自体は良いのだが,フリント・マルコとコナーズ博士が救われるという重要な場面でこれをするのはどうなのか?扱いが雑ではないか?そもそも本作は全体的に雑だと感じた部分が多い.

 今回のピーターはヴィランたちを「救おう」と躍起になる.「救う」とは「治す(cure)」ことである.ピーターたちは彼らに対する治療薬を創って,次々と彼らを元の姿に治していく.物語上は彼らは治されるためにMCUに召喚されたわけではないが,作り手としてはやはりそういう意図があったはずだ.そう考えると引っかかりが見えてきてしまう.例えばリザードは『アメイジング・スパイダーマン』にて死にもしないし,最終的に元の姿に戻ってピーターを助けている.既に彼は救われていた.サンドマンやドック・オクは確かに身体はそのままだったり死んでしまったりしたが,精神的には既に救われていた.もちろん,彼らが召喚されたのは彼らの殆どがまだヴィランだったタイミングだ.それは分かりつつ,やはりこの「救い直し」に引っかかりを感じる.NWHで"save"ではなく"cure"という動詞が使われていたのは,結果としてヴィランたちは精神的にも救われるが,メインの目的は彼らを元の姿に戻し,彼らの世界におけるスパイダーマンとの戦いで命を落とさないようにすることだからだろう.

 彼らは次々と薬などで救われていく.まるでスイッチのオン/オフが切り替わるようなその「軽さ」も気になる.例えばここで『スパイダーマン3』を思い出してみよう(しばらく『スパイダーマン3』の話をします).

 ベンおじさん殺害の真犯人がフリント・マルコ(サンドマン)だと分かり,ブラックスーツの力も相まって復讐心に蝕まれていくピーター.地下の戦いでマルコに一応の復讐を果たしたピーターはその帰り,アパートの大家さんにキツく当たってしまう.自分がこれまでになく攻撃的になっていることに気づいたピーターはブラックスーツと距離を置く.後日,彼はマルコがスパイダーマンに殺された(実際はまだ生きている)ことをメイおばさんに報告する.マルコは死んで当然だと語るピーターに対してメイおばさんは「復讐は毒のようなもの」だと諭す.

 一時はブラックスーツを脱いだピーターだが,ハリーがMJを唆したことを知った彼は再びブラックスーツに頼り,ハリーを倒す.彼はそのままMJが働く店に乗り込み,酷い騒ぎを起こした上,勢いでMJを倒してしまう.自分が分からなくなったピーターは遂にシンビオートと決別する.

 元々ピーターはMJに婚約を申し出ようとしていたが,彼は自分の行動を顧みて,自分にはその資格がないと諦めようとしていた.そこでメイおばさんがは「自分を許しなさい」という.この「許す」という言葉が後にフリント・マルコを救うことになる.

 戦いを終え,マルコと対話するピーター.ベンおじさんの死の真相を語るマルコ.彼は故意にベンおじさんを殺したわけではなく,彼自身もこの悲劇を悔いていた.話を聞いたピーターはマルコに対し,「お前を許す」と告げる.ピーター自身の経験が込められた重みのある一言だ.この瞬間にマルコは救われた.客観的に見て彼の行為自体は裁かれるべきものではあるが,彼自身の問題として,彼は救われたのだ.

 このように『スパイダーマン3』では長い時間をかけてヴィラン(もしかしたらピーターがそうなっていたかもしれない,スパイダーマンの鏡像的存在)の救済が描かれていた.精神的な意味での救済だ.それと比較するとNWHでの救済法は物理的であまりにも簡素だ.因みに,サンドマンに関してはエレクトロ戦でピーターに協力を申し出ていたので多分,『スパイダーマン3』後の彼だろう.NWHでの彼は元の世界に帰って娘に会いたいという想いが強く,それがピーター達と対立する原因になっていたはずで特別ピーターに敵意はないと思うが,それでも『スパイダーマン3』の後でトビーピーターと戦っている姿は後から考えると若干思うところもある.

 ヴィラン関連だと,彼らを元の世界に戻した後の影響は?例えばノーマンが生きていたらオクタヴィアスの研究はどうなっていたのか?など色々考えることはあるが,そこは気にするべきではないだろう.他にも例えばエレクトロってスパイダーマン=ピーターを知ってたっけ?(スパイダーマンを黒人だと思っていたようだし)とか,細部にはツッコミどころも多々あるが,それらに関しては鑑賞中は気にならなかった.一方で冒頭に挙げたサンドマンとリザードの場面の雑さは視覚的に分かりやすく瞬時に気づいてしまったし,このような重要な展開で過去映像を使う本作はヴィランたちの物語に対してどのくらい真摯に向き合っているのかを再度考えさせてしまうものだったので,このシーンが個人的に一番の不満点となっている.