otaku8’s diary

映画のこととか

第35回TIFF『カイマック』人生の上澄みを集めてみた(ネタバレなし)


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 東京国際映画祭でミルチョ・マンチェフスキー『カイマック』を観た。マンチェフスキー監督の作品は『ビフォア・ザ・レイン』『ダスト』を鑑賞済み。本作の参考になりそうな『柳』は残念ながら未鑑賞。

 これは傑作だった。鑑賞済みのマンチェフスキー作品はどちらも主にマケドニアを舞台にしていて、一筋縄ではない凝った作りの映画になっていた。特に両作とも「循環」のイメージがある。『ビフォア・ザ・レイン』は三部構成の最初と最後が輪のように繋がることで、マケドニアの終わりの見えない民族紛争の不毛さを表現していた。『ダスト』では現代ニューヨークと一世紀前のマケドニア双方の物語が互いに相互作用することで、「物語を紡ぐこと」を表現していた。現代マケドニアの住宅地を舞台にした『カイマック』にも同じく「循環」のイメージが感じられた。本作では貧富の対比を上下層で表している。空間的に断絶された二層があるアイテムによって繋がるとき、「循環」が起こる。

 貧富の対比を上下層で表したような映画は近年でも何作かあるが、今回はそこに一筋縄ではない「ラブストーリー」が置かれる。それぞれの層にいるカップルたちの人間模様が、笑いと風刺を交えて描かれた悲喜劇だった。様々な要素が絡む映画だが、そこは流石ミルチョ・マンチェフスキー、ロジカルな脚本と演出で魅せる。考えさせられる部分がありつつ、ちゃんとエンタメ性も担保された作品になっている。

 タイトルはマケドニア等で親しまれるお菓子だが、これは牛乳の上澄みを集めて作られるらしい。つまり、この映画は人生の最高の瞬間を得ようとする人間たちの群像劇になっていて、この「カイマックを集めること」の意味を考えながら観るとより面白い。