otaku8’s diary

映画のこととか

第35回TIFF『パシフィクション』トロピカル・ノワールな『地獄の黙示録』(ネタバレなし)


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 東京国際映画祭で『パシフィクション』を観た。アルベルト・セラの映画はこれが初鑑賞。事前にかなりつまらないという評判を聴いていたので不安だったが、好きな映画だった。

 舞台はフランス領ポリネシア。そこに赴任したブノア・マジメル(『ピアニスト』)演じるフランス人高等弁務官デ・ロールが核兵器実験の噂を聞きつけ、段々と陰謀の匂いを嗅ぎつけていく…という話。

 賛否両論になるのは確かに分かる。陰謀を巡るフィルム・ノワール風の映画というと『チャイナタウン』が思い出されるが、そういう感じではない。真実は何かというサスペンスはなく、ひたすら冗長な会話劇が繰り返されるのだ。話が全然動いていないようで、まるでリゾート地にいるかのようにゆったりとした感覚になる。正直、娯楽性は少なく体感時間は長い。

 この映画を『地獄の黙示録』になぞらえているレビューがあったが、確かに似ている。物語が進むにつれて抽象度が増していき、最後には自分は何を見せられているのかすら分からなくなっていく。本作の映像は他作品ではあまり見ない感じのもので、少し安っぽさも感じる(これが観客を妙な浮遊感に陥らせてくれて、良いのだが)。その中で異様な、中盤の海上サーフィンの場面は『地獄の黙示録』でのナパーム弾投下のシーンのように圧倒的リアリズムを与えている(ここで意識が覚める)。

 本作の意味がないように見える会話劇の背景にあるのは、核実験にまつわる陰謀(噂話)だ。実際、フランス領ポリネシアでは核実験が繰り返されている一方で、フランスによる経済的援助が島民に恩恵を与えていた側面もあるらしい。ブノア・マジメル演じるデ・ロールは立ち位置には良心的だが、例えばポリネシア人の民族舞踊(?)を演出するデ・ロールの姿には無自覚な植民地主義の痕跡を感じる。そういう歴史的背景を匂わせながら、核実験という「世界の終末感」に向かって冗長な会話劇が続いていく…奇妙な味わいで個人的には好きな作品だった。