otaku8’s diary

映画のこととか

『THE FIRST SLAM DUNK』感想 ミリ知らでも楽しめる傑作(微ネタバレ)

 「スラムダンク」という作品の存在くらいは今までの人生の中で認知していたものの、それが一体何なのかは全く知らなかったし、惰性のせいで調べようともしなかった。この映画についても観るつもりはなかったのだが、やたらと評価が高く、「映像作品として素晴らしい」と言われていたので観ることにした。

 以前宇多丸さんが『ハリー・ポッター』の新作を批評した際、「知らない状態は貴重だから」と何も予習せずに新作に臨んでいたことを思い出した。確かに「何も知らない自分」は貴重なので、自分も予習どころか予告編すらチェックせずに鑑賞した。事前知識はこれはバスケについての作品だということくらい。

 結果からいえば大傑作であった。非常に丁寧な人物の描き込みであるため物語の理解に全く問題はなし。かといって説明的な訳でもなく、そこに引き算の巧さがあった。
 何しろミリしらなので冒頭で「どうやら兄弟が要の話らしい」と分かるレベル(後から聞いたところによると、このパートは映画オリジナルらしい)だが、まずそこで画の動きに感動する。さらに完璧な省略の演出によるテーマの提示で感情が持っていかれる。試合の場面では画だけではなく、カメラワークもダイナミックで臨場感抜群。
 繰り返される回想が邪魔だという意見があるが、そうは思わず。『ロッキー』(大好きだが)等のスポーツ映画では、試合過程を省略する。これは仕方ないことではあるが、個人的には、リアルな試合にはある連続性が無くなり感情が途切れてしまう演出だった。本作は全編を通して一つの試合を丁寧に描く。回想シーンの入れどころはほぼ完璧で、確かに回想によって物理的な連続性は失われるが、感情の連続性は持続する。むしろ、試合進行と共にチームへの思い入れが積み重なるように増大していく。そこが巧い。

 一方で、スラダンミリしらとしては引っかかる部分もある。例えば流川は個人主義でパスを回さないタイプだと言われていたが、それを示すエピソードが欲しかった(原作にあるのだろうが)。あと、桜木が背骨を痛めたにも拘らず最後に大活躍する件は確かにアツいのだが、本当にそれで良かったのか?と思ってしまう。「一生後悔するところだった」とコーチは言うが、「自分が輝く瞬間は今だ」と言い返す。その後は当たり前のようにプレーに参加しているのだ。「創作なんだからそんなところ気にするな」と言われるかもしれないが、やはり気になってしまう。特に最近だと『クリード 炎の宿敵』でこのようなケースに対する素晴らしい展開があったので余計に。

 「映画にハマったら是非原作も読んで欲しい」と言われる。確かに原作はめちゃくちゃ気になる。なにせ、聞いた話によればあの桜木花道がメインキャラクターらしい。でも映画で十分だから敢えて読みたくないという気持ちある。この新鮮な感覚をキープしておきたいのだ。迷う。