東京国際映画祭で『孤独の午後』を観た。監督はアルベルト・セラ。アルベルト・セラ監督作といえば、一昨年の東京国際映画祭で扱われた『パシフィクション』が記憶に新しい。
本作はスター闘牛士アンドレス・ロカ・レイにスポットを当て、闘牛場での死闘とその競技前後の様子が反復される構成をとっている。
闘牛場=舞台のように演出され、その中で闘牛士達は予め決まったプロセスに則って牛と闘う。つまり、まずは槍や短剣を牛に刺して彼らを興奮状態にしてから、最後にマタドールと呼ばれる主役が登場して赤マントを使って牛を翻弄し、トドメの一撃を与えるのだ。このプロセスからわかるように闘牛士は一人で闘うわけではなく協力プレイである。また、彼らを鼓舞する観客の存在も忘れてはいけない。一方で牛の方は真に一頭で闘う必要があり、また彼らはこのプロセスの中で必ず死ななければならない。闘牛場という舞台の上で闘牛士が「勇ましい戦士」を演じるのと同じように、牛達もまた、「勇敢な戦士達に襲いかかり、彼らによって殺されて死ぬ」という役を担わされているのだ。
本作で描かれるもう一つの要素が、「演劇」前後の舞台袖である。本作ではアンドレスのことを仲間の闘牛士達(全員男性)が「何と勇敢なんだ」「真の戦士だ」と讃える場面が目立つ。また、闘牛士の衣装はかなり着るのが大変そうで、仲間に手伝ってもらったりもする。男性らが連帯することで醸成されるマスキュリンな空気感の中でアンドレスが演じる「生」と真に孤独な牛が演じる「死」が強烈に対比される。そして、その対比がくどいくらい反復されることで浮かぶ空虚さみたいなものが、タイトル「孤独の午後」と呼応するように感じられた。
ドキュメンタリーでありながら劇映画に見える瞬間も多く、ショットもバキバキに決まっていた。画的な面白さを感じられる作品にあまり出会えなかった今年のTIFFのなかではかなりお気に入りの映画となった。
【参考】
格式と伝統の生と死のドラマ スペイン国技・闘牛を楽しむ ― 【達人のコラム】 - SWAN INTERNATIONAL INC.