今年もベスト10を決める時期がやってきました.選考作品は2021年に日本でリリースされた映画とします(試写は除く).順位を付けてますが,3位以上とそれより下は,それぞれほぼ同率です.各部門では順位や数は決めずに選びました.
総合
- 『ジャスティスリーグ:ザック・スナイダーカット』
- 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 『最後の決闘裁判』
- 『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
- 『ファーザー』
- 『DAU. 退行』
- 『由宇子の天秤』
- 『空白』
- 『コントラ KONTORA』
- 『アイダよ、何処へ?』
10位の『アイダよ、何処へ?』はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の「スレブニツァの悲劇」を題材にした映画で,当時のユーゴスラヴィアの複雑な情勢や現地の空気感がスクリーンから伝わってくる凄みがありました.9位の『コントラ KONTORA』はインド出身のアンセル・チュウハンが監督した日本映画.低予算映画ですが,それを感じさせない「強度」を感じました.ラストカットは今年ベストクラスに好きですね.8位の『空白』は今年観た映画の中でも上映中の緊張感が特に高かった作品.「空白」というタイトルが秀逸です.7位は『由宇子の天秤』.自己矛盾を抱えるドキュメンタリー作家である主人公を追った「ドキュメンタリー」と言えそうな映画(劇映画です).これもタイトルが良いですね.6位の『DAU. 退行』はソ連の全体主義社会を実際に再現した6時間9分の大作.何も起きていないようで実は興味深い(と個人的には思っている)前半5時間と倫理的に問題のあるラスト1時間.良くも悪くも印象に残った作品.5位の『ファーザー』は認知症を追体験させるこれまでにない体験.認知症の者を身近に持つ人だけでなく,そうでない人にもこれから自分がそうなってしまうかもしれないという恐怖を与える作品.4位の『MONOS 猿と呼ばれし者たち』はコロンビア内戦中のゲリラ部隊(少年兵)の話で当時のコロンビアの実情に基づいてはいますが,それを特定できる情報は提示されない寓話性の高い作り.撮影や音楽など,技術面のレベルも非常に高かったです.3位の『最後の決闘裁判』は様々な文脈で議論されていますが,個人的には「リドリー・スコット映画」として高評価.神に運命を委ねる男性優位封建社会という「システム」の不条理を無神論的な冷めた目線で描く,とてもリドリー・スコットらしい作品でした.諸々の要素が非常に高レベル.2位の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は1920年代のアメリカ西部を舞台にしたサスペンス.登場人物それぞれが複雑性を伴って描かれており,彼らが紡ぐ物語も実は複雑ですが,同時に語り口はシンプルで洗練されています.「有害な男性性」に取りつかれた農場主フィルはベネディクト・カンバーバッチのはまり役.1位の『ジャスティスリーグ:ザック・スナイダーカット』は個人的な思い入れが加味されています.
2017年に『ジャスティス・リーグ』が公開.ザック・スナイダーが製作途中で降板し,ジョス・ウェドンが後を継いで完成させた2017年版.スナイダーによって作られるはずだった映画とは大きく異なるものとなり作品自体の歪さや舞台裏の諸問題によって賛否が分かれ,世界中でスナイダー版の公開を求める運動が巻き起こりました.本作はその運動の帰結であり,ファンダムの力を見せつけた作品として重要な映画です.
映画の内容自体はどうか.比較的明るめで,良くも悪くも見やすいテイストに仕上がっていたウェドン版とは違い,本作はスナイダーの作家主義への回帰ともいえる映画.色調や劇伴が一変し,ダークな作風に.4時間に及ぶ物語は各キャラクターを丁寧に描くことでジャスティス・リーグの存在理由は明確に(ウェドン版ではスーパーマン頼りなところがあった).特にウェドン版では軽く扱われていたサイボーグのドラマは大幅に増え,素晴らしいキャラクターとなっています.
本作はまさに「ザック・スナイダーのジャスティス・リーグ」であり,有名ヒーローものの映画でありながら「商業作品」とは一線を画す一大叙情詩です.
次点は『プロミシング・ヤングウーマン』,『マクベス』(完成度では今年トップレベルだと思います),濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(こちらもトップレベルの完成度)と『偶然と想像』,『すばらしき世界』,『アナザーラウンド』,『Tick, tick...BOOM!:チック,チック...ブーン!』,『ライトハウス』,『ドント・ルック・アップ』など.
監督部門
・カーロ・ミラベラ=デイヴィス『スワロウ』
・リドリー・スコット『最後の決闘裁判』
・アレハンドロ・ランディス『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
・エメラルド・フェネル『プロミシング・ヤングウーマン』
・フローリアン・ゼレール『ファーザー』
・濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』
・イリヤ・フルジャノフスキー『DAU. 退行』
・吉田恵輔『空白』(『BLUE』は観られなかったです)
俳優部門
・キャリー・マリガン『プロミシング・ヤングウーマン』
・フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』
・チャドウィック・ボーズマン『21ブリッジ』
・アンソニー・ホプキンス『ファーザー』
・ラッセル・クロウ『アオラレ』
・ベネディクト・カンバーバッチ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
・レイ・フィッシャー『ジャスティスリーグ:ザック・スナイダーカット』
・真田広之『モータル・コンバット』
・ダイアン・レイン&ケヴィン・コスナー『すべてが変わった日』
・鈴木亮平『孤狼の血 LEVEL2』
・片岡礼子『空白』
・古田新太『空白』
・ウラジミール・アジッポ『DAU. 退行』
・アンドリュー・ガーフィールド『Tick, tick...BOOM!:チック,チック...ブーン!』
・ドニー・イェン&ニコラス・ツェー『レイジング・ファイア』
・役所広司『すばらしき世界』
・レオナルド・ディカプリオ&ジェニファー・ローレンス『ドント・ルック・アップ』
・キャサリン・ラングフォード&チャーリー・プラマー『スポンティニアス』
・ライアン・レイノルズ『フリー・ガイ』
・チョウ・ドンユイ『少年の君』
・松岡茉優『騙し絵の牙』
・トニー・レオン『シャン・チー/テン・リングスの伝説』
・キャスリン・ハンター『マクベス』
脚本部門
・『プロミシング・ヤングウーマン』
・『ファーザー』
・『ドライブ・マイ・カー』
映像部門
・ジャスパー・ウルフ『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
・ジャイルズ・ナットジェンズ『グレイン』
・ジェアリン・ブラシュケ『ライトハウス』
・ケイトリン・アリスメンディ『スワロウ』
・ブリュノ・デルボネル『マクベス』
音楽部門
・ミカ・レヴィ『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
・ヨハン・ヨハンソン『最後にして最初の人類』
・アンソニー・ウィリス『プロミシング・ヤングウーマン』
・ジャンキーXL『ジャスティスリーグ:ザック・スナイダーカット』
・香田悠真『コントラ KONTORA』
・世武裕子『Arc アーク』『空白』
・ジョナサン・ラーソン『Tick, tick...BOOM!:チック,チック...ブーン!』
・ルドヴィコ・エイナウディ『ノマドランド』
オープニング部門
・『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
・『私というパズル』
・『少年の君』
センス・オブ・ワンダー部門
最大瞬間風速が高い場面,偏愛してしまうような場面などがある映画(オープニングとエンディングは除く).
・『モータル・コンバット』
"Get over here!"
・『ジャスティスリーグ:ザック・スナイダーカット』
「未来に生きろ。過去を塗り替えろ。」
<番外編>
・『オールド』
本編上映前のシャマラン監督によるメッセージ映像.「シャマランの挨拶」,それだけでも面白いのだが,実はそれ自体が本作のメタ構造を示唆している.
エンディング部門
・『スワロウ』
・『コントラ KONTORA』
・『アナザーラウンド』
・『DAU. 退行』
特別枠
・『JUNK HEAD』
・『最後にして最初の人類』
雑感
今年は総合芸術「映画」というメディアの魅力を活かした作品が多かったように感じました.反省点は阪本裕吾作品と今泉力哉監督作品を見逃してしまったことです.