otaku8’s diary

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『スペンサー ダイアナの決意』感想(ネタバレなし)


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 『スペンサー ダイアナの決意』を試写会で観てきた。クリステン・スチュワートがダイアナを演じるということ以外情報を入れずに観たのだが、いい意味で期待を裏切られた。本作で描かれるのはダイアナがチャールズ皇太子と離婚する直前の三日間だ。この頃、ダイアナと皇太子の関係性は冷え切り、ロイヤルファミリーの生活にも馴染めずにいる。彼女の精神的負担も頂点にあった。映画はそんな彼女の精神状態を表現するように、全体的に不穏で閉塞感がすごい。

 主演のクリステン・スチュワート。クリステンが演じているのだから勿論めちゃくちゃカッコいいのだが、一方で本作のダイアナは序盤から弱々しく見える。ロイヤルファミリーは人々の「楽しみ」の対象でしかなく、皆それを理解し、自分の果たすべき役割を果たしているのだが、彼女はそれを受け入れられない。しかも王室生活では、外からはマスコミに監視され、内部でも彼女の言動は監視されている。そんな生活に抑圧され疲弊した彼女をクリステンが上手く演じていた。試写会で解説されていた英国王室ジャーナリストの方は、クリステンの顔自体はダイアナに似ていないが、その所作であったり全体的な雰囲気がそっくりだと仰っていた。確かに素人目から観てもちゃんとダイアナ妃に見えるから流石だ。

 音楽のジョニー・グリーンウッドは最近では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を担当していて、今回もいい仕事をしていた。曲自体が不穏なものもあるのだが、それよりも音楽の使い方が印象的。画面で起きていることと音楽が少し合っておらず、その外しが不協和音的に閉塞感を醸し出していた。

 撮影は『燃ゆる女の肖像』が素晴らしかったクレア・マトン。全体の美術の出来と相まって今回も素晴らしかったが、特に中盤のとある展開とその撮影は『燃ゆる女の肖像』を強く想起させるものだった。その連想がノイズになる人もいるかもしれないものの、閉塞感の漂う本作のなかで、このシーンのとても美しさは際立っていたように思う。