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『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』 レビュー(ネタバレ注意)

  

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あらすじ

夏休みに学校の友人たちとヨーロッパ旅行に出かけたピーターの前に、元「S.H.I.E.L.D.」長官でアベンジャーズを影から支えてきたニック・フューリーが現れる。一方、ヨーロッパの各都市をはじめ世界各国には、炎や水など自然の力を操るクリーチャーが出現。世界に危機が迫るなか、ニックは「別の世界」からやってきたという男ベックをピーターに引き合わせる。

スパイダーマン ファー・フロム・ホーム : 作品情報 - 映画.com

 

レビュー

 

『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』は今までのMCUをメタ的に批評しながらもフェーズ4への期待を高め、同時に”スパイダーマン映画”らしい作品

 

 

 「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」はMCU世界のスパイダーマン第二作目かつ「エンドゲーム」後の初MCU映画。まず冒頭、一般人目線で「インフィニティウォー」、「エンドゲーム」での出来事の影響が簡潔に描かれます。面白いのが人々の消滅と復活というシリアスな事件をこの映画ではコメディタッチで描いていることです。いきなり人々が復活して混乱したり(冷静に考えれば色々悲惨なことになりそうですが)、消えた組は成長が止まっていることをいじられたりします。お馴染みの生徒たちも登場し恋や夏休みの話題で持ち切り。この冒頭によって「ああ色々あったけど、この映画はいい意味で前作から変わらないんだな」と安心して観ることができました。

 

 トムホランド版スパイダーマンには二つの大きな特徴があると思っていて、それは「MCU世界の出来事であり他のヒーローと比べて彼はまだルーキーである」、「子供にが怖い大人に対峙する話」ということです。まず前者についてですが、このスパイダーマンはまだヒーロー経験の浅い新人で前作「ホームカミング」ではトニースタークは彼の師匠、父親のような立場として描かれていました。スパイダーマンと言えばこれまでも描かれていたように自分の行動によって結果的に愛するベンおじさんを死なせてしまったことをきっかけに人の為に力を使おうと決意しヒーローとして活動し始めるという話が有名です。今作ではトニー・スタークがいなくなった後の世界でピーターは自分はトニーの後継者として相応しいのか悩みます。トニーが残した”遺産”を自分本位な目的に使ってしまったり人を信じすぎてしまったために身近な人を危険にさらしてしまいヒーローとしての自覚を問われます。トニーから与えられた力をどう使い、そこに伴う責任に対しどう向き合うのか。この部分はこれまでのベンおじさんのくだりをMCU世界であることを利用してアップグレードしていて上手いなと感じました。

 

 後者に関しては「ホームカミング」ではヴァルチャーが今作ではミステリオ(ベック)が怖い大人としてピーターに現実を叩き込みます。ミステリオは自分のことをヒーローだと言って世界を救っているように見せますが実際は彼の自作自演(ここはミステリオのキャラを知っている人なら予告の段階で胡散臭いと感じたはず)。ベックが自分の計画について演説する場面は露骨な説明パートですが今回は彼のキャラとマッチしていて全然ありだと感じました(むしろジェイクの演技が堪能できて楽しい)。人々はミステリオをヒーローだと信じ込み、特にピーターは彼を信じたことで悪い結果をもたらしてしまいます。ベックは「人は見たものを信じる」と言い結局世の中は彼の言う通りに動いていきます。最後にはベックが市民に対してスパイダーマンに悪い印象を植え付け正体までバラシてしまいますが、彼らはベックの言う通りそれを鵜呑みにしてしまうのか?ここまでくるとピーターは、この問題を含め、スパイダーマンとして自分の行動とそれに対する責任に向き合っていかなければいけません。ベックの起こした問題提起がピーターをスパイダーマンとして成長させる一因となっていると感じました(怖い大人からまた一つ学んだ)。また、彼の問題提起は観客、特にMCUを追いかけてきて「エンドゲーム」を経験した人に対するメタ的なメッセージにもなっていることも面白かったです。

 

 アクションシーンは前作よりも大幅にパワーアップしていてスパイダーマンのスイングアクションはルッソ兄弟が見せてくれたものに近くなっています。あと個人的に良かったのがスーツに頼らずともちゃんとピーター自身の能力が高いことを示してくれていたことです。アイアンマンがトニーでなくてはならなかったようにピーターもアイアンマンではなく唯一無二のスパイダーマンなんだと分かり良かったです。特にスパイダーセンスに関しては戦いのキーとなっていて嬉しかったです。ミステリオのトリックアクションも良かったです。どんどん息苦しくなっていくような感覚があったと思えばヒヤリとする瞬間もあったりと良い意味で不快感があり、メリハリのある見せ方で個人的には同じくトリッキーな「ドクターストレンジ」の映像表現よりも好きでした。ラストの対決を下手に派手にしなかったところも好きです。

 

 キャストについては可愛げがあり誠実そうなトム・ホランドは良かったですし、今回は彼の無垢そうなところが利用され物語に組み込まれていくので、好きな人に対するリアルな様子を含め、どんどん共感できました。ピーターの同級生たちも相変わらず愛すべきキャラクターたちといった感じで良かったです。ジェイク・ギレンホールの怪演は抜群の安定感。

 

 個人的な一番のサプライズはサム・ライミ版でお馴染みのJ.Kシモンズ演じるジェイムソンの登場です。新聞社からネットニュースに変化しているのは時代を感じたり。単に同じ役の違う人物なのか、それとも…。違う地球からきたのはベックではなく彼だったのかも…。見たままに信じておこうと思います。

 

 不満点は、MCUに共通するものですが、「ただの一般人」の描写が不足していることです。今作はMCU映画の中ではその点に関してかなり良いほうだとは思いますがもう少し欲しいです。確かにピーターの同級生や先生など一般人の描写は多いですが、そうではなく、主人公周りでない市民とスパイダーマンの関わりがもっと見たかったです(例えば「スパイダーマン2」の電車のシーンや「スパイダーマン」の橋のシーンなど)。主人公周りでない分、より明確にヒーローと市民の関係性を伝えられるはずです。今作の結末だと今後それを描かないわけにはいかない気もしますが。

 

まとめ

 

 「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」はインフィニティサーガの完結編として「エンドゲーム」後の世界をしっかりと描きながらもフェーズ4での新たな展開を期待させる作品であり、それは最終作にベックというキャラを持ってきて問題提起させたことからも分かります。色々な面でスパイダーマンらしさが増した「スパイダーマン映画」としてもかなり良い作品だと思いました。