otaku8’s diary

映画のこととか

『EO イーオー』感想(前半ネタバレなし、後半ネタバレあり)

前半ネタバレなし、後半ネタバレあり

 

 


www.youtube.com

ネタバレなし

 イエジー・スコリモフスキ監督の新作『EO』をポーランド映画祭で観た。個人的なポーランド映画祭の思い出といえば、昨年イメージフォーラムで開催された『DAU. 退行』オールナイト上映の直後にそのままポーランド映画祭でキェシロフスキ特集に臨んだこと(疲労で少しウトウトしてしまったが)。

 結論から言えば、めちゃくちゃ好きだった。オマージュを捧げていると言われる『バルタザールどこへ行く』よりも好きだ。ちなみに、物語自体は『バルタザールどこへ行く』とは違う。

 個人的に好きなショットがかなり多かった。冒頭の廃棄処理場のクレーンPOVや、無機的な金属廃棄物の山と有機的な動物たちの対比ショットで既にこの映画のことを好きになってしまった。他にも色々なカメラワークの遊びがあって「スコリモフスキ若い!」となった。本作のイメージカラーの一つは赤色だと思うが、それは同じくスコリモフスキの『早春』を連想したりもした。音楽も非常に印象的で、Pawel Mykietynという作曲家を知らなかったが覚えておきたい一人になった。

 本作ではリアルな瞬間と抽象的な瞬間を行ったり来たりし、時には神話的にさえ思える瞬間も存在するが、それらを特徴的な映像や音楽を使って、台詞ではなくイメージの連鎖で魅せていく。スコリモフスキはこれまでも映画の中で遊びを入れたり台詞に頼らない語りを実践してきたが、今回はその集大成的な作品でもある。

 動物を主人公にした映画だが単なるいい話みたいになっていない、潜在的な暴力性が存在するのは『バルタザールどこへ行く』同様良かった。特に、個人的には運命論的な冷酷さを感じ、その中で強調されるEOの力強い存在感にやられてしまった。

 

 

 

 

 

ネタバレあり

 後半、唐突にイザベル・ユペールのカメラ目線のカットに切り替わる。彼女が演じる役(伯爵未亡人らしい)はEOを連れてきた司祭と何やら性愛的な関係性もあるようだが、二人の関係は明確には描かない。ユペールはこの場面にしか登場せず、かなり出番は少ないが存在は抜群。無言で司祭に圧をかけていくところは怖すぎた。この場面での二人のやりとり、その意図するところが掴みにくいが、自分なりに考えてみた。

 二人の間にはどうやら前々から金銭的な問題があるようで司祭の債務を彼女が肩代わりするのが常らしいが、そのことで彼女はキレている。かなりピリピリした空間なのだが、この場面でのラストカットで二人はキスをしようとする。つまり、色々問題があっても結局二人の関係性は性愛的なところに収束する。ここでEOはサーカスで自分を愛してくれたカサンドラのことを思い出したのか一人旅立つ。ポスターにもなっている、EOが橋の中央にいるショット。背景では大量の水が流れ落ちているが、それが段々と逆再生で収斂していく。そして、時間が戻ったかのように、EOが最終的に行き着くのはサーカスと同じく動物が人間に支配されている場所だ。本作では途中途中で人間とは独立した野生動物の存在が強調される。また、力強く走る馬に思いを馳せるような場面も多い(最終的には、暴れる馬を横目に立ち去るEOが最高なのだが)。つまり、自由を望んだり実際自由になることが出来ても、最終的にEOは人間の下に存在するロバだったという運命論的な着地に見える。それが前述の司祭と未亡人の関係性と相似しているのだ。