ネタバレあります
試写会にてアレックス・ガーランドの『MEN 同じ顔の男たち』を観た。なかなか良かった。
アレックス・ガーランドはこれまで「ハードSFっぽい何か」を撮ってきた。本作はその「っぽい何か」の部分を煮詰めたような印象だった。そして、ガーランドはビジュアリストでもあるが、ビジュアルとテーマ性の結びつきという意味では、個人的には過去作の中で最も彼の手腕が発揮されていたのではないかと思う。
本作はかなり寓話性が高い。例えば裸の男はジェシー・バックリー演じるハーパーに上腕を裂かれるが、他の男たちも同期するように腕が裂かれている。つまり、彼らは個人ではなく、集団で一つの「男性という存在」を形成している。そして彼らは皆同じ顔であり(その理由などは一切分からないが、そこはどうでもいい)、それによって有害な男性性がより一般的に、強調されて表現されている。そういう男性性を表す諸々の所作の演出も細かくて好印象。
特にインパクトが強いのはラスト、男たちが苦しみながらお互いを"産み合い"ながらハーパーに迫っていくという異常な展開。これはホモソーシャルな男性社会一般を表しているようにも見えるし、同時に彼女の死んだ夫と同じく「自分たちは傷ついているんだから、女性はもっと男性に優しく(愛する)するべきだ」という主張を表しているようにも見える。ここで素晴らしいのがジェシー・バックリーの表情。始めこそホラー映画的な怖がるリアクションを見せていた彼女も、冗長に繰り返される男たちの主張に飽き飽きしたのか、最後には"産み合う"彼らを見ても真顔のまま、冷静な素振りを見せる。神父は「夫に謝らなかったあなたに責任がある」と言ったが、このような有害でくだらない主張に対しては毅然とした態度で然るべきだと、ちゃんとビジュアルだけで表現している。
ホラー映画という意味では、ジャンプスケアに頼っていないところがとても良かった。例えばトンネルの場面では、トンネルの先の方に人と認識できるか怪しいくらい小さな人影を感じる。それが段々と大きくなっていき、こちらに近づいてくることが分かる。ハーパーの家に裸の男が侵入する場面でも、敢えて音などでその存在を強調したりせず、何気なく画面に映り込む。こういう、単に驚かすのではなく、日常に紛れ込む「不自然」を観客に自発的に気づかせることで恐怖を生むタイプの演出が好きだ。
上記のように、かなり良い部分がある映画ではあったが、少し物足りない印象も残る。本作で描いているのは、男性の有害性をビジュアルによって重ね重ね描くというものでシンプル。それは素晴らしいのだが、実際の画面内で起こる物語的展開は少なく、起伏に欠けているようにも感じた。