otaku8’s diary

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『ベルベット・クイーン ユキヒョウを探して』感想(ネタバレなし)

 


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 『ベルベット・クイーン ユキヒョウを探して』を観た.昔から動物ドキュメンタリーが好きで,しかも音楽をニック・ケイヴとウォーレン・エリスが担当しているとのことで非常に楽しみにしていた作品.実際に観てみると,これは大傑作だった.もちろん,音楽も素晴らしく感動的だった.

 動物ドキュメンタリーといえば,人間を意識させずに動物をいかに野生の姿のままカメラに収めるかに重点を置いている作品が多いと思う(『アース』など).あるいは,『クロコダイル・ハンター』のように動物の紹介役となる人物をメインに置いた作品もあるが,本作はそのどちらとも違っていた.

 本作の特徴は「視る/視られる」の関係が強調されているところだ.例えば『アース』では,人間が動物を観察しているんだという一方通行の視線が徹底されている.それに対して『ベルベット・クイーン』では「野生動物を観察していると思ってる?実は観察されているのはあなたたちだよ」という描かれ方をする.実際,本作では動物がこちらを睨んでいるようなショットがいくつも登場する.これは,無自覚かもしれないけれど,人間はどんなに存在感を消そうとしても自然界に影響を与えてしまうものだということを暗示しているようだ.

 本作は,二人の男がユキヒョウを探す旅路を映している.人間が「主役」という意味では先ほどの『クロコダイル・ハンター』のようなタイプに思えるが,そうではなかった.ここでも彼らが動物たちを紹介するという一方通行の作りではなく,「大自然を視ようとする人間」と「大自然に視られている人間」の双方をカメラに収めている.そういう関係性のなかで,野生動物の撮影のために彼らがとるアプローチに深い味わいを感じた.本作は単に野生動物の知識を与える映画ではなく,野生動物と対峙する人間を映すことで,自然を前にした人間の在り方を表現しているように思った.