otaku8’s diary

映画のこととか

第35回TIFF『タバコは咳の原因になる』シュールな戦隊モノ?(ネタバレなし)


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 東京国際映画祭でカンタン・デュピューの最新作を観た。最近、日本でも巷を騒がせている(?)デュピューだが、自分は『地下室のヘンな穴』を観逃してしまい、監督作では最近の作品『勤務につけ!』『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』のみ鑑賞済み。

 『タバコは咳の原因になる』はデュピューの新作であることはもちろん、不思議なタイトルと設定、場面写真に惹かれていて、今回のTIFFのなかでも注目作だったが、実際に奇妙な映画だった。『マンディブル』で主人公たちがすんなりと巨大なハエを受け入れていたように、本作の世界は不条理を受け入れる。例えばチープな「特撮作り物感」が当たり前に存在したり、脈絡のない不条理話があちらこちらで起こることで、リアルや整合性、理屈を求める多くの映画たちとは対極にある作品になっていた。

 「多くの映画たち」といえば、本作は一応ヒーロー(戦隊)映画であるが、巷のヒーロー映画を風刺する作品でもあった。タバコ戦隊のメンバー名は、「ニコチン」、「ベンゼン」などの文字通りたばこ煙に含まれるような有害物質の名前になっている。それを踏まえると、『タバコは咳の原因になる』というタイトルがとても皮肉に見える。「世界を救うヒーローの映画」を最大限滑稽にしたらこんな感じなのか、という作品だった。

 劇場では何度か笑いが起こっていた。デュピュー作品らしく、上映時間が短く、サクッと楽しめるのでおすすめな一本(ちょっとグロいので苦手な人は注意だが)。

 

※勝手に思っているだけなので勘違いかもですが、『ディアスキン』のある場面へのセルフオマージュなシーンがあって嬉しくなりました。同じように感じた人がいたら教えてください。

 

映画批評月間『ブリュノ・レダル、ある殺人犯の告白』感想(ネタバレなし)

 アンスティチュ・フランセ日本主催、映画批評月間で観た二作目は『ブリュノ・レダル、ある殺人犯の告白』。


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 1900年代初頭に実在した殺人犯ブリュノ・レダルと、彼を担当した医師の手記を基に映画化したようだ。とある少年を山中で殺害した17歳のレダルは自首をする。捕まった彼は、医師に自分の人生を幼少期から振り返るような回顧録を書くように言われる。本作ではその手記に書かれた内容(過去)と、レダルと医師の問答が映し出される。

 まず特筆すべきはレダルの手記をほぼそのまま再現したらしいナレーションだ。本作には全編通してレダル役のディミトレ・ドレによる語りが存在する。その語りによって説明過多になっており、故に物語のサスペンス性が低下していて、正直なところ、はじめは何だかなあという印象だったが、その後のトークショー(三宅唱監督登壇!)も踏まえて考えてみると、これはかなり興味深いのではないかと思えてきた。

 本作からは、彼を断罪したり、逆に彼に同情させたり、はたまた彼の動機を理解させようという意図も感じられない。その要因の一つこそ、延々と続く彼のナレーションだろう。通常、映画には「語らない美学」のようなものがあって、語らないことで生まれる余白が観客の想像力を掻き立てる。そして、これが映画に娯楽性をもたらす。しかし、本作ではナレーションによってその余白を塗り潰しているように見える。つまり、意図的に娯楽性を消しているのだ。

 実在の殺人犯を描いたような映画では、作品が犯人に寄り添ってしまう危険性についてよく議論される。その意味では、本作は寄り添うこと、もっといえば娯楽的に消費することも拒絶しようとしている。

 本作では「自慰」が物語の重要なキーワードとなっている。ひたすら続くレダルの一人称視点の語りはまさに「自慰」的であり、それを淡々と映しだす本作には、冷徹ささえ感じられる。

映画批評月間『恋するアナイス』感想(ネタバレなし)

 アンスティチュ・フランセ日本主催の映画批評月間で『恋するアナイス』を観た。日本未公開の作品が上映されるので、あと何作かは観に行きたい。


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 本作はシャルリーヌ・ブルジョワ=タケ監督の長編デビュー作品とのことだが、傑作だったと思う。主人公アナイスが疾走するスピード感溢れる冒頭からグッと引き込まれ、力強いラストまで目が離せない。饒舌で自由奔放な彼女はエネルギッシュであるが、一方で彼女は自他問わず永遠ではない人生に恐れを抱いている。彼女は恋愛が長続きせず、博士論文も仕上がらない。将来不透明な人生を歩んでいる。また、彼女にとって大切な人が居なくなることに対する不安も抱えている。その人間らしさがとても魅力的で、演じるアナイス・ドゥムースティエが非常に良かった。

 そんななかで出会うとある女性とのクィアな物語がメインになってくる。本作は基本的に軽快でコメディチック(笑いも起きていた)であるのだが、彼女とのドラマが始まるあたりから『キャロル』を想起させるような雰囲気が入り混じっていく。ポスターにもなっている海岸の場面はとても美しく、同時にちょっと驚いた(『燃ゆる女の肖像』『ハンズ・オブ・ラヴ』『スペンサー』といった作品でもやはり浜辺や海岸のイメージが前景化しているので、既視感がないといえば嘘になるが)。

 一方で、二人の女性が互いに似た者同士だということも何度か強調される。つまり、本作はアナイスの自己愛の物語にも見える。将来不透明な彼女が、自分自身を再発見し、肯定し、愛するまでの話だとも捉えられるのだ。

 

 

2022年9月に観た新作映画

  金子監督おめでとうございますの月.

 

 

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ウクライナでのユダヤ人大虐殺『バビ・ヤール』感想


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  セルゲイ・ロズニツァ監督作品『バビ・ヤール』を観た。ロズニツァの映画はまだ数作品しか観れていないが、その中でも本作は特に印象に残った。

 本作では第二次世界大戦中のウクライナで起きた「バビ・ヤール大虐殺」を当時のアーカイブ映像を繋いで描いている(https://neutmagazine.com/goodcinemapicks-babiyar)。

 本作、事件を解説するのではなく、観客に体感として知ってもらうことに重点を置いているようだ。なので、最低限の注釈、ナレーションしか登場しない。恥ずかしながら事件のことをあまり知らなかった自分には鑑賞中に整理出来ていない事項も多かったが、そこで起きていた事象は感ぜられた。これは後から知ったのだが、映像や写真に音を後から当てている場面もあるという。この点で、本作では虚構が果たす役割も大きく、それによってやはり体感として事象を伝えたい意図があるのではないだろうか。

 原題に"Context(文脈)"とある通り、虐殺そのものだけではなく、その前後の状況が描かれる。殺戮の瞬間を強調しすぎることはなく、あくまで一連の状況を伝えようとしている。それによって、ソ連とナチスドイツの間で揺れ動くキエフ(キーフ)の群衆がより強く印象に残った。

 

P.S.

『DAU』シリーズのイリヤ・フルジャノフスキーがアソシエイト・プロデューサーらしく、大変驚きました。